川崎フロンターレ と ポジショナルプレー (1)

前稿では「ポジショナルプレー」の概念を紹介している記事の要旨を書いてみました。

 

mudame.hatenablog.com

 

本稿では、ショートパスを駆使して今季J1トップクラスの勝率を誇る川崎フロンターレ)の成功要因を、
「ポジショナルプレー」の概念に当てはめて分析することをチャレンジにしています。

なぜ川崎?

前項で取り上げた“Crash Course to Positional Play”の最後に、元バルセロナのチャビが「フリーマン」について語る部分があるのですが、
ここで、愛すべき川崎フロンターレについてポジショナルプレーの概念を使って考察してみたくなりました。
チャビが語る「フリーマン」を作る原則と、ポジショナルプレーが生み出す3つの競争優位性の議論について、前・川崎監督の風間八宏さんの話をそっくりだと思ったのです。
ここからは、「ポジショナルプレー」の概念に基づいて、風間さんや川崎の選手に関する記事やインタビューから川崎のサッカーを説明できればと思います。

「出して、動く」「背中を取る」「フリーの定義」… ボール保持者とDirect Supporting Playersの関係性

風間サッカーを表す言葉といえば「出して、動く」でしょうか。
昨年までJリーグ中継で川崎戦を見ていた方なら、風間監督がハーフタイムのコメントでこの言葉を多用していたことを思い出せるでしょうか。
この言葉について、今期加入した阿部選手に関する記事を見つけました。


『忖度できる男、阿部浩之(川崎F)』
前任の風間八宏間監督時代から川崎は「出して動く」が攻撃の根幹を成す。
ピッチに立つ選手は正確な技術はもちろん、「どこにパスを出して、どこのスペースに動くのか」を考えながらプレーすることが求められる。
誰もが簡単にできるわけではない。
中村憲剛が折に触れて話しているように、仲間の特徴を理解し、スムーズに次のプレーに移行できるまでトレーニングを積んでようやく形になるものだ。
結局そのベース部分を習得できずに数年でチームを去ることになった選手も過去には存在する。
つまり、川崎のサッカーには選手間の深い相互理解が不可欠ということ。
http://www.bbm-japan.com/_ct/17090105

この記事は、阿部選手が難しい川崎サッカーに適応した理由が述べられていますが、
他のチームに比べて「どこにパスを出して、どこのスペースに動くのか」を考えてプレーする難しさも読み取れます。

また、風間サッカーのパスの方法論を説明したものの1つに「相手の背中を取る」という言葉があります。
2014年に「背中を取る」とは何かを解説している五百藏容さんの記事などを参考に、下図で説明してみます。
(参考:https://coachunited.jp/column/000107.html)

 

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このように、選手はパスを「出して」、相手マークの「背中を取」るようにして「動く」。これを繰り返して前進していくことが求められます。

これが、前項で説明したチャビの「フリーマン」の説明に似ているのではないでしょうか。
上図の味方Xは、背中を取ることで「位置的優位性」を確保できますし、パスが成功していくことで局所的に「数的優位性」を生み出せます。
さらに、前の記事にあるように、阿部選手のようなプレーヤーが揃っていない限り、このコンセプトが機能しない=「出して、動く」に関するプレーの「質的優位性」を有していると言えます。

加えて、「フリーの定義」に関する記事にも、「出して、動く」中での質的優位性が考えらていることがうかがえます。

 

とりわけ選手たちに最もインパクトを与えたのが、“フリーの定義”であることは間違いない。

背後にDFが密着していたとしても、出し手が速いパススピードで足もとに正確に付け、

受け手が次の動作に移れる置き場所に正確に止めることができれば、そう簡単には取られないし、

攻めの幅も広がる。そういう考えを植え付けてきた。

一般的に考えれば、受ける際に誰もマークに就いていない状態を“フリー”とするが、

風間監督が率いるチームはそれだけがフリーの状態ではない。

その意識と成し得るための技術があれば、受けられる状況の選択肢も広がると同時に、崩せるエリアも広く見えるようになる。

http://www.soccerdigestweb.com/news/detail2/id=20021

 

 

つまり、そのタイミングでボールを受けられるクオリティを有した選手であれば、一般的にはスペースがないような場所でも「フリー」であるといい、パスを受けてよいということになります。

パスを受ける側と出す側に関する記述は『フットボール批評issue17』より一部転載されたこの記事より見受けられます。
まず、パスを『受ける』時は、『いつ』『どこで』『どう』がポイントになります」とあります。
――

『いつ』は、ボールを持っているパサーがパスを出せる瞬間です。(中略)  この「いつ」が共有されていないと、受け手はパスが来た時に相手にマークされてしまう。たいていはボールが止まっていないのに、受け手が自分の受けたいタイミングで動いてしまうので、その時はマークを外していても実際にパスが出てくるタイミングでは再びマークされてしまう。これではせっかく事前にマークを外していても意味がない。出し手がパスを出せる瞬間=「いつ」を共有していることで、はじめてちょうどいいタイミングでマークを外すことができる。
(中略)
『どこ』は、敵から外れている場所です。そんなに敵から離れていなくても大丈夫です。『いつ』が共有できていればそんなにスペースは必要ない。受け手は1人とはかぎらないので、受けられる可能性のある選手が同時に受けられる場所に動けば、守備側を無力にできます」
(中略)
『どう』は、敵のマークから外れるための駆け引きですね。外れているなら止まっていてもいい。敵の視野から外れたところに立っていて、敵が気づいて動いたら逆をついて動けばいい。わざと隠れるわけです」
http://jr-soccer.jp/2017/09/07/post74201/

 

続けて、ボール保持者のパスを出すタイミングにも言及されています。

ボールが味方の間で動いている時、つまり『いま』ではない時に受けるためのアイデアを持って準備をする。
「ボールが動いているうちに考えておくのはパスの出し手も同じです。1メートルのパス交換の間に視野を作っておく。それができるのが上手い選手です。パサーが見なければいけないのは『敵の一歩』です
http://jr-soccer.jp/2017/09/07/post74201/

これらは「ポジショナルプレー」で言及されている、ボール保持者と直接的サポートプレーヤーとの相互作用をよりタクティカルに落とし込んだものだと思います。

数的優位性を生み出すために「出して、動く」。
その中で、位置的優位性を作り出すために「相手の背中を取る」。
質的優位性が生まれたプレーヤーは「フリー」であり、パスを受けられる。
それらを基軸に、受け手と出し手が「いつ」「どこで」「どう」パス交換するのかを共有している関係性を作り出す。

これが風間サッカーの基本と言えるのではないでしょうか。
ただし、これは「ポジショナルプレー」の概念に一部にすぎません。
次項では、川崎がIndirect support playerがOrganized Structureを持続的に形成してプレーを進めているか?という点を中心に検証したいと思います。