ワールドカップ最終予選 日本対オーストラリアで考える展開の読み合いの重要性
先月末のワールドカップ最終予選で、日本がオーストラリアを2-0で破った試合はとても感動を覚えるものだった。
本田・香川といった日本を代表する世界的スターをメンバーから外して、井手口・浅野・乾といった新進気鋭な選手たちを起用した。
それがうまくハマり、ワールドカップ予選では一度も勝ったことがなかった宿敵オーストラリアに完勝したという見方が一般論である。
このことをもう少し深く掘って考察してみたい。
結論としては、日本は豪州に対して戦術的に上手に立つことで勝利をつかんだといえるだろう。
日本は、豪州がやりたかったサッカーを封じて攻め手を防ぎ、相手の構造的な欠点を突くことで2点を奪うことができた。
下記2つのコラムでは非常に興味深い分析がされている。
日本側からみる分析 ー 豪州の脆弱性を突いたプラン
1つ目は五百蔵容さんが書かれた、日本側から見た、豪州の分析と対策について。
https://victorysportsnews.com/articles/5269
要約すると、豪州は
- ボールを持つとき、ゴール前中央(バイタルエリア)に構えている3人の攻撃的選手にボールを集めようとする
- 中央に脅威があると見せかけて、サイドに張った選手をフリーにさせてそこから攻めようと計画されている
それに対して日本は、
- 相手の前線3人へのパスコースを切ることで、ピッチ中央に構えているボランチにパスを出させている
->ここがパスカットのねらい目と判断して、日本のインサイドハーフ(井手口・山口)がインターセプトする
また豪州の特徴として、
- 前線3選手をバイタルエリア付近に位置させているということは、あまり下がって守備をさせないことになる
- そのかわりに、ボランチの守備範囲が広くなっている
1) もしボランチが前から守備にいってしまったら、元々の守備的ミッドフィルダーのポジションは最後尾のセンターバックが飛び出て対応する
2) センターバックが飛び出てパスカットを試みた場合、残りのセンターバックは成功するか失敗するか、その行方を待ってから次の行動をする
これを狙い目ととらえて、一瞬ボールの行方を待ってしまうセンターバックの裏を取ることをチームの作戦としていたとしている。
さらに日本は、豪州の特徴であるバイタルエリアにいる3人の脅威を最小限にするため、
守備に回った際に中央に人数をかけて守ること・パスコースを切ってボールを渡らせない役割を、
中盤の山口・井手口と、ウイングの浅野・乾を中心に課していたとしている。
豪州側からみる分析 ー 1年前から積み上げてきたプラン
次に、豪州側の目線でこの試合の分析をされているのが下記結城さんのコラムである。
https://victorysportsnews.com/articles/5290
要約すると、豪州は
- 1年前の日本戦で手を焼いた問題点を解決するシステムを開発
- ボールコントロール技術力の高い選手たちが、どうやったら円滑にパスをつなげられるのか?が課題
1) 相手のミッドフィルダーとディフェンダーの中間のスペースを広げて、
「シャドーストライカー」のロギッチ・トロイージがボールを受けれるような駆け引きを展開したい
2) そのため、まずはサイドから攻撃を始める。
3) サイドに突破力のあるレッキーを採用、センターフォワードのクルーズはサイドに流れる動きを繰り返す
4) 相手がサイドに気を取られるような見せて、シャドーストライカーがバイタルエリアでボールを受けるチャンスを作る
といったことが狙いになっているとしている。
日本が採用している4-3-3という布陣は、中盤に3人しかいないから、そこに守備の穴ができてしまうことが一般的に多い。
特に「アンカー」と呼ばれる中盤の一番後ろにいるプレーヤーの“脇”が空きやすく、豪州もそこをシャドーの2人が狙う意図があったかもしれない。
しかし日本の守備時にその対策を怠らなかったことも、上記コラムでは指摘されている。
相手がいるから戦術は固定されない ーじゃんけんのようなもの
豪州からしてみたら、1年前の日本戦などにみられる問題点の解決を試みた新システムを開発してこの試合を戦った。
しかし、日本は彼らのやりたかったことの対策がすでに十分に行っていた。
それでも豪州は、時間をかけて開発したこの戦術を信じてやる以外のプランしかなかった。なぜなら他のゲームプランを持っていなかったから。
こうして日本はワールドカップ出場を決めることができたわけだが、ハリルホジッチ監督は、この成功した戦術に固執することはないだろう。
今回の試合のように、1つのパターンの固執すると対策がなされてしまった際、勝ち筋が見出せなくなってしまう。
日本には、(1人で相手ブロックを強引に突破できるような)打開力を持っているスタープレーヤーがたくさんいるわけではない。
それゆえ対戦相手に合わせてプランを変えていく必要性がある。
じゃんけんに例えれば、グーを出してくる相手だとわかっていれば、パーを出せるようにしておく。
自分たちがパーを出すと思っている相手はチョキを出してくるだろうから、それに合わせてグーを出すことも必要になってくる。
こういう読み合いをワールドカップ本番でできるチームになっていたら列強との対戦でも勝てるかもしれない。
だからこそ、いまは自分たちの勝ち筋をひけらかす必要はない。
2010年ワールドカップのときのように「自分たちのサッカー」一辺倒で試合前から戦術的に丸裸の状態で臨むようなことにはならなそうだが、
本番でもアッと驚くプランをハリルホジッチと日本代表には披露してもらいたいと心から願っている。