ポジショナルプレー という概念

最近、サッカーに関する記事を読んでいると、”ポジショナルプレー”という用語が流行っているようです。 しかし、恥ずかしながらまったく馴染みない言葉だったので、少しお勉強してみることにしました。

Twitterに流れてきたDavid Garcia “Crash Course to Positional Play” を参考にわかったことを書き出していきます。

https://www.itsjustasport.com/home/2017/6/22/crash-course-to-positional-play-part-1-of-4 https://www.itsjustasport.com/home/2017/6/22/crash-course-to-positional-play-part-2-of-4-organized-structure https://www.itsjustasport.com/home/2017/6/22/crash-course-to-positional-play-part-3-of-4-players-relationships https://www.itsjustasport.com/home/2017/6/26/crash-course-to-positional-play-part-4-of-4-generate-superiorities

その前に、ポジショナルプレーという言葉は、サッカーの戦術を考えるために非常に有用な「概念」だなと思いました。

概念とは、サーチライトであるといいます。 その言葉が光のような役割をして、これまで見えてこなかったようなものが見えるようになるということです。

苅谷剛彦『知的複眼思考法』(1996, 講談社)では、「セクハラ」という概念でその効果を説明していますが、

例えば、セクハラという概念が登場する前は、「電車で男性が女性の体を触ること」と、 「公共の場でおじさんがエロ本を読んでいること」が同じ特徴をもっているという認識がされていなかったけれど、 「セクハラ」登場後は、異性に対するいやがらせ行為という括りで批判される対象行為になったと思います。

同様にサッカーにおける「ポジショナルプレー」という言葉も、 サッカーというスポーツを考えるための1つのサーチライトだと思っています。 例えば、「パスを受ける選手は半身でボールをもらいましょう」とか「裏を抜けるフォワードは弧を描きながら走れ」とか、 「最終ラインは高ければ高いほど良いというわけではない」といった個々のプレーに対する評価は、「ポジショナル」という言葉を通してみてようやく理解できることがあるのではないでしょうか。

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「概念が思考の働きにとって重要なのは、ある概念が与えられることによって、それまでは見過ごされていたことがらに光があてられるようになることにあります。アメリカの社会学者、タルコット・パーソンズは、このような概念のはたらきを『サーチライト』にたとえました。新しい概念は、それまで暗やみの中で見えなかったことがらに光をあてて、その存在を示すサーチライトだというわけです。」

苅谷剛彦『知的複眼思考法』(1996, 講談社

下記は記事の要旨です。解釈間違いなどあればご指摘ください。

3つに競争優位性を生み出すために、全プレーヤーがあるべきポジショニングと、それぞれの役割・関係性を意識すべきということに尽きると思います。

各論については、それといって新しいことはないですが、「ポジショナルプレー」という思想・概念を理解したうえでの各プレーという意味では、 各選手の判断のよりどころが明確になるのかなと思います。

ちなみに、攻撃側の事例が多いですが、守備側に回る可能性を考えたポジション等の言及もほしいところかなと思います:

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David Garcia “Crash Course to Positional Play”では、大きく3つの要素でポジショナルプレーが説明される:

1)“Organized Structure” (有機的な組織)

‐フィールドの中で、効果的な選手配置が実現されているべきである

‐それはチームメンバー・試合状況によって変わってくる(止まっていてはいけない)

‐むやみに密集しないよう、攻撃側は「横幅」と「深さ」を生み出すポジショニングが必要

2)“Players' Relationships”(選手同士の関係性)

‐各選手は、選手間の相互作用を引き出しながら行動すべきである

‐1. ボール保持者のファーストチョイスはドリブル

1-a. もし相手がボールを取りに来なかったら前進できる

1-b. もし相手がボールを取りに来たら、味方がフリーになるからパスを選択できる

‐2. ポール保持者に近い味方選手=Direct Supporting Playersはボールを囲って3-4名

2-a. ボール保持者のサポートのために相手選手の間にポジショニングすべき

2-b. ボールを受けたら直ぐにパスできるような体の向きで用意しておくべき

2-c. ボール保持者との関係性で、2vs1の数的優位が作れるように心がけるべき

‐3. ポール保持者に遠い味方選手=Indirect supporting playersは組織構造をキープするべき

3-a. あまりボールに近づかず、相手選手を無駄にボールに近寄らせるべきではない

3-b. 次の展開に必要になるかもしれない位置を察知してバランスを考えたポジショニングを心がけるべき

3-c. ロングボールを受ける準備をすべき

‐これらの役割を持った選手たちが相互作用を引き出しながらプレーすれば下記のような結果が生まれてくるはずである

‐A. Continuous Spatial Distribution 

連続してフィールドに構造的に選手が分布されている状態

‐B. Ball Circulation 

ボールがスムーズにフィールド内を循環している状態 そのためにフリーな選手・スペースを連続的に生み出せている状態

‐C. Collective Spatial Awareness

選手同士が現状のポジショニング状況を把握して正しいポジションを継続して修正できている状態

3) “Generating Superiorities”(競争優位性の創造)

‐上記1,2の要素から生み出されるのは、3つの競争優位性であり、それこそが目的となる。

‐1.  数的優位性

フィールドをボール保持者近辺に切り取った際に、味方チームの数が相手チームの数を上回りたい

‐2.  位置的優位性

体の向き・オフザボールの選手の走り出し方といった選手の動作によって瞬間的にでも相手より上回る立場でプレーしたい

‐3.  質的優位性

選手の特性的に、対峙する相手に勝る状況を作り出したい。 足の速いウインガーが足の遅いディフェンダーと走力で勝負する状況を作れたら有利である。

‐「フリーマン」:ポジショナルプレーの説明に必須のコンセプトである

バルセロナ・チャビの説明する事例:ディフェンスラインの選手がボールを保持して前進しようとするケース

‐ボールを持っているセンターバックの選手は、相手より人数が多いケースで、ドリブルを開始する

ミッドフィルダーをマークしていた相手選手がドリブルで前進してきた選手に気を取られて向かっていったら、マークを外れた選手が1人フリーになり、向かっていった相手の背後から良い状態でパスを受けられる

 ‐この状態を連続して続けてどんどん前進していく

 ★そもそも構造的な数的優位性、相手の背後に位置して位置的優位性、

 さらにショートパスを得意とする選手たちが生み出す質的優位性をすべて生み出したプレーモデルになっている