川崎フロンターレ と ポジショナルプレー (3)

今期(2017年)の川崎フロンターレを、ポジショナルプレーという概念で分析することを主題としています。

本稿は、前稿の本編となります。 

mudame.hatenablog.com 

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本稿の結論を言えば、川崎がショートパス主体で攻撃をつづけられている時は、ポジショナルプレーの原則に即した各選手のプレーが機能的にはたらいてる時であるいうことです。

これは、彼らが意図しているか否かは別にして、ポジショナルプレーの概念で各選手の動きを汲み取ると、効果的に動きとは何か?がわかってきます。

本稿では、各選手の特徴的な動き・特徴をポジショナルプレーの概念に抽象化させるような考察をします。それにより、各選手の行動がポジショナルプレーの原則に則っていることを説明していこうと思います。 

攻撃時の基本ポジショニング

下図は、川崎が攻撃時(かつ相手が守備ブロックを作っている)の状態を表したものです。

 

 

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ボールを前進させるため、センターバック(CB)と中盤3選手(CM)を中心にボールを回しながら、相手を押し込んでいきます。全体的には、パスを出す・受けるためには選手達が「フリー」になるためのスペースが必要なので、相手を密集させないよう前と横には広がりながら位置取りをします

最前線はセンターフォワード(下図CF)を中心に、サイドハーフ(SH)と入れ替わりながら、スペースを作るために相手最終ラインを後退させます。もちろん最終ラインの裏でボールを受ける隙が生み出されば、決定機をつくることができます。

横幅に関しては、基本的にサイドバック(SB)が大外を担いますが、場合によってはSHと入れ替わりながら相手マークを動かしていきます

スペースを作るとはいえ、相手の深い陣地をショートパスで攻略していくためには、高いボールスキルが要求されますが、各選手の気の利いたポジショニングがそれをサポートしているといえます。

以降では、前・横・中央の選手の配置と、彼らの特徴的な動きを考察していきます。

1. 縦の深さ -なぜ阿部がCFとして起用されたか

ポジショナルプレーの性格上、縦に深く・横に広く、広範囲にプレーヤーを配置すべきとあります。
まず「縦への深さ」の作り方を考察していきます。

今期の川崎では、守備時に4-4-1-1の布陣が採用されています。
その最前線には、小林悠もしくは阿部浩之が起用されることが多いです。
阿部浩之は、今期加入した選手であり、小柄でセンターフォワードというよりサイドアタッカーの印象が強い選手です。
それでは、なぜ阿部選手が開幕早々からセンターフォワードとして起用されていたのでしょうか。
1つ言えることは、縦への深さを作り出せる選手だからではないかということです。
阿部選手も小林選手も裏へ抜ける動きが得意です。ウインガーとして起用されてサイドから裏に飛び出す動きもできます。
磐田戦で得点した際のラインブレイクも見事でした。


【公式】ゴール動画:阿部 浩之(川崎F)51分 ジュビロ磐田vs川崎フロンターレ 明治安田生命J1リーグ 第11節 2017/5/14


裏へ抜ける動きを継続して献身的にこなす両選手が前線にいることで、抜けられるリスクを取りたくない相手ディフェンスラインは深い位置を取るようになります。
これはポジショナルプレーをする際に必要な味方のスペースを生み出す作業とも言えます。

その上、裏へ抜け出す動きだけでなく、阿部選手は遠目からのコントロールショットも非常にうまい選手です。


【公式】ゴール動画:阿部 浩之(川崎F)56分 川崎フロンターレvsサンフレッチェ広島 明治安田生命J1リーグ 第15節 2017/6/17

 


【公式】ゴール動画:阿部 浩之(川崎F)54分 FC東京vs川崎フロンターレ JリーグYBCルヴァンカップ 準々決勝 第2戦 2017/9/3


敵陣深くまでラインを下げさせたら、相手最終ラインの前にスペースができます。
阿部選手は、そこからシュートを打ちゴールを奪うというフィニッシャーとしての能力も高いです。

阿部選手と小林選手に関しては、試合の中でセンターフォワードサイドハーフの位置を入れ替わるケースが見受けられます。

両者とも、裏を取る動きである「裏抜けの動き」をしながらスペースを生み出す役割と、空いたスペースでボールを受ける役割が熟せる点が優れているのです。

 

2. 横幅の取り方 -”そこにエウソン”の生まれ方

続いて、攻撃時に横幅の広さを担保する方法を考察します。
基本的に、川崎では、攻撃時にサイドバックがサイドラインの高い位置まで侵入し、それによりプレーの幅が作られています。
今期は、右サイドバックにエウシーニョ選手、左サイドバックに車屋選手が起用されていることが多いです。
彼らの面白い点は、サイドでの上下動だけを役割としていない点にあると思います。
「そこにエウソン」というのは、川崎サポーターとしてはおなじみの言葉になりました。
サイドバックであるはずのエウシーニョがシュートを打つシーンが多く、「なぜそこまで上がってきた!」という驚かされ、いい意味で「そこにエウソン」という言葉が生まれてたと思います。
よくある光景としては、左サイドの車屋選手のクロスに合わせて背後から斜めの動きで侵入するようなものです。


【公式】ゴール動画:エウシーニョ(川崎F)58分 サガン鳥栖vs川崎フロンターレ 明治安田生命J1リーグ 第18節 2017/7/8


もしくは、中にドリブルで切り込み、ペナルティエリア付近まで侵入して、シュート。


【公式】ゴール動画:エウシーニョ(川崎F)82分 川崎フロンターレvsベガルタ仙台 明治安田生命J1リーグ 第29節 2017/10/14


それだけでなく、右サイドでの崩しに際してもサイドにとどまらない動きが良くみられます。
例に鹿島戦でのゴールにつながる右サイドからの崩しを紹介したいと思います。


2017年8月13日 川崎 VS 鹿島 46分阿部浩之ゴール

この動画の8秒目で、エウシーニョ選手がボールを受けます。

右サイドでボールを受けたエウシーニョ選手は、
1) まずドリブルで前進、
2) 右サイドに落ちてきた小林選手にパス、
3) そのまま斜め中央にランをします。
これによって、ついてきた鹿島の遠藤選手をボール保持者から引き離し、サイドに数的優位なスペースが生みだされます。
このように、エウシーニョ選手が所定の持ち場のサイドを前後するだけでなく中央へ向かって斜めに走ることにより、サイドに数的優位が生み出されるケースが多く見受けられます。

当然持ち場を大きく離れたところまで動き続けるということは、体力のあるエウシーニョ選手のようなプレーヤーだからこそ実現することではあります。また、持ち場を離れすぎると、守備に回った際に必要な場所に選手が居ないというリスクにもつながります。

しかしながらそれらを越えて「そこにエウソン」が川崎にとってポジティブな現象として語られるのは、攻撃時に数的・位置的優位性を生み出すプレーを何度も生み出して来たからではないでしょうか。


3. 中盤3選手のポジショニング -中村憲剛はなぜサイドに流れるのか


最後に、フィールドのセンターエリアを主戦場とする選手のポジショニングについて考察します。

今期の中盤は、ネット選手・大島選手のダブルボランチと、トップ下に中村選手を置くスタイルがベースになっています。
彼ら3選手は、ボールコントロールに長けた選手で、ボール保持者に近い位置でプレーをすることが多いです。
攻撃を開始する際、ネット選手はディフェンスライン付近までポジションを下げ、センターバック2人とビルドアップを開始します。
大島選手はその前方中央で、中村選手は比較的より高い位置にいることが多いですが、時折低い位置まで下がってくることもあります。

ポジショナルプレーにおいて重要なことは、縦の深さ・横の幅が取れた状態で、フィールド中央の選手がスペースを確保しながらプレーすることです。
その観点から言えば、彼らは「フリー」になる位置取りを探しながら、「出して動く」を繰り返す中心選手になっています。

その証拠に、2017年Jリーグにおけるパスのチャンスビルディングポイント*は、
現在のところ中村選手が77.83(リーグ1位)、ネット選手が67.14(リーグ2位)、大島選手が63.71(リーグ4位)と、
チーム内だけでなくJリーグ内でも圧倒的な数値を誇っています。*1

なお、川崎の1試合当たりのパス本数はリーグ1位(652.3本)で、平均値(469.1本)を大きく上回っています。

 

ここでトピックに上げたいことは、何故トップ下の中村選手は時折サイドの低い位置でボールを受けようと動くのか?ということです。

このトピックは、川崎ファンにはおなじみのいしかわごうさんも、コラムとして取り上げているものです。

 

例えば最終ラインからビルドアップを始めていく川崎に対して、相手は前線から人数をかけてボールを奪いにいくことで、そのビルドアップをけん制してきます。よくある光景です。フロンターレあるあるです。

そこで川崎も相手の出方に応じて、ネットが最終ラインに降りたりしてアクセントをつけますが、大島僚太は基本的に真ん中のエリアに居続けます。中央の密集地帯でもプレスを剥がしてしまう技術が大島にあるからでもあるんですが、それだけだとうまくボールが進んでいかないときもあります。

そういうときは、たいていトップ下の中村がスルスルと中盤の底まで降りてきて、後ろのボール回しに加わります。ただそういう場面での中村は、かなり自由なポジションを取っています。ときに味方のサイドバックの位置まで流れてくることも珍しくありません。

なんでトップ下の選手が、中盤の底の真ん中ではなく、わざわざタッチライン際に流れてボールを受けようとするのか。一見すると、チームのバランスもとても悪いように見えますから、不思議でたまりません。

(ここまで無料、以降は有料記事になりますhttps://www.targma.jp/kawasaki/2017/07/24/post11830/ )

 

中村選手のこの動きはセンターフィールドのスペースを生み出すために有効な動きといえます。
下図は相手がブロックを作りプレスを仕掛けてきた際に、中村選手が右サイド低い位置に動くプレーを表したものです。

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相手は、川崎が攻撃を仕掛けて怖いところ=中央部分を閉めてブロックを作りながら、ボールの前進を妨げるようなプレスをかけてきます。
そのような際に中村選手がサイドに流れてパスを受けると、相手の中盤の選手が追いかけてプレスをかけに来ることがあります。

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このような場面を作れたら、川崎としてはしてやったりです。相手選手が元にいた中央の空いたスペースに入り込んだ選手が比較的フリーな状態で中央から前進可能です。

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中村選手は、自分のポジショニングによって味方にスペースを作ったり、パスによって自分のスペースを作ることを意識してプレーしていることがわかります。
以下のインタビューでも、彼が次の次のポジショニングを考えながらプレーをしていることがわかります。

「そうですね。例えば、本当は(自分が)行きたいところにいる相手を移動させるために、あえてパスを出して動かしておいてそこに入っていく、みたいな。自分も意思があって相手にも意思があるので、それをうまくコントロールしながら、自分の突きたいスペースをあける。もちろん、いつも狙い通りにいくわけではないですけどね」
https://www.footballista.jp/interview/37861

たまたま撮影していた7月の浦和戦でのプレーでも、中村選手は一旦サイドに降りて、うまくスペースを創出していたことがわかります。

 

 

本稿の結論:勝っている試合では、連続して優位性を生み出すポジショニングの連動が見られる

川崎フロンターレの攻撃を、ポジショナルプレーという概念で説明する試みが本稿の目的でした。

ポジショナルプレーという概念では、いくらパスをつなげたとしても、数的・位置的・質的優位性を生み出すプレーでなければ結果には繋がらないと考えられます。

よく「ポゼッションサッカー」や「パスサッカー」と称されることが多い川崎のサッカーですが、ボールを保持する・パスをつなぐことだけがゴールにを決めているわけではありません。

試合の中で、優位性を連続して生み出すポジショニングがチーム全員で行われたときに決定機が生まれていると言えます

それらをミクロで見ていくと、阿部選手・エウシーニョ選手・中村選手にみられるような動きに落としこまれているのです。

本論の結論はここまでですが、そもそも自チームの戦術がうまくいくか否かは、相手チームの戦術やこちらへの対策の仕方に左右されます。

次は、川崎がうまく行かなかったとき(=負けた試合)に起きた現象について、川崎の立場・対戦相手の立場の両面から考えてみたいと思います。