席のハイエナ

東京には本屋に併設されているカフェというのがある。

そのカフェは大体スターバックスで、併設された本屋で売っている本を持ち込んで「座り読み」ができる最新・最強の図書館である。
 
それゆえ、席は争奪戦だ。
昔よく行っていた横浜みなとみらいの本屋スタバには「席を待つ列」が設けられていて、店員は彼らを空いた席に誘導してくれる。
休日であれば、そこには大抵10組くらいの待ち客が並んでいた。
こういう席確保に関する制度があるスタバは良心的だと思う。大抵のスタバはそういう制度がない。例えばいまぼくがいる銀座のスタバがそうだ。
店内には多くの席が用意されているが、需要は供給に追いついていない。
 
そうなると、どうなるか。
席は見つけたもの勝ち。席を確保できていない客は、ハイエナのように席を求めてうろうろし続けるしかない。これは最新の椅子取りゲームである。
 
これが極めて不快な状態なのである。待つ側も待たれる側も。
 
席を確保するためには、席が空いた瞬間にそこに荷物を置くしかない。空いた席の最短距離にいるハイエナがその席をゲットできる。
 
効率的に席を見つけるためには、どこの席が空きそうか見極める必要がある。
コーヒーがまだ満タンに入っている人の席の前で待っていても、チャンスが舞い降りてくるわけがない。
席を片付けはじめたり、もうクリームのかすしか残っていないコップを持っている人の前で待機するのが賢明だ。
 
そういう席の近くで待っていると、大抵新規のハイエナが同じ空席のにおいを嗅ぎつけてやってくる。
その場合「おれが先にここを狙っているのだ」というアピールをして蹴散らすしかない。
 
しかし、その人がすぐ出て行くとは限らない。
コーヒーがなくなったと思ったら、おかわりを注文する人もいる。
 
座っている側もたまったもんじゃない。終始ハイエナに狙われているのだから。
「はやくどけ」と言わんばかりに目の前で席を狙われている状態で優雅に本を読むためにはある程度の集中力が求められる。
 
先ほどの僕。まだ席のハイエナだった頃。周りにはかなりの”同志”がいた。
僕の戦略は、「一区画の数席を狙い続ける」だった。10席ほどの区画に目をつけて、そこから離れないようにした。
そのうち2席ほどのテーブルは、ほぼ空のコーヒーが置いてあったため、その2席は極めて有力な獲物だった。
そのうち1席の女性が席を片付け始めた。きた。近くに敵が来たため、目線で追い払いつつ、近づく。
すると獲物である席に座っている彼女は一瞬こちらに目を向け、片付けるのをやめ、コップにへばりついてるクリームの残骸をちゅーちゅー吸い始めた。
 
「おい、どういうことだ、おい。。」
 
すると先ほど狙っていたもう1つの席が空いた。その席はいま追い払ったハイエナに取られた。一瞬の出来事だった。
 
なんてことだ。目線を1つの席に集中してしまったために別の席が空いたことに気づかなかった。
目の前の女はカスみたいなものをまだ吸いつづけている。
 
僕は彼女を一瞬恨んだが、それはお門違いだと思い直した。この制度が全ての元凶だ。
しかし、ここで諦めてしまったら今日読もうと思っていた本を読めなくなってしまう。
買うかどうか悩む本は、まずここでコーヒーと一緒に「座り読み」をしてから決めたいのだ。
 
絶望感を味わった数分後、奥の方で席が空いた。近くには別のハイエナがいたが、彼は別の席に注目をして気づいていない。
しかたない。これは制度の問題であって、私はこの椅子取りゲームのルールの中で正々堂々と戦っているのだ。
ごめんなさい、恨むならルールを恨んでください。と心の中で思いながら鞄を席に置き、コーヒーを注文しに行ったのだった。
 
ーー
さて、果たして狙われる側になった私だが、2冊本を読み、そのあとパソコンを開いて優雅にこれを書いている。
 
ハイエナは増え続ける。しかし私は彼らに狙われていない。
なぜなら飲み終わるかどうかわからないように透明ではないカップにコーヒーを入れてもらったから。